現場全体を快適にする相乗効果も生まれる女性がいきいき働ける環境づくり「北国分地区函渠その2工事」を訪ねて
「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」
当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第4回目は、㈱安藤・間が施工する「北国分地区函渠その2工事」を訪ねてと、日野興業㈱の「現場が女性にできること…フラワートイレプロジェクト」を紹介します。
マルチコプターを導入し上空から撮影
「北国分地区函渠その2工事」は、東京外かく環状道路の千葉県区間延長約12.1kmの工事のひとつで、掘削深さ4.2~13.9m、掘削土量12万1300㎥の道路トンネルを構築する工事です。道路の整備にあたっては、コスト削減とともに、地域住民への騒音や振動を軽減するための環境対策として、半地下構造の掘割スリットを採用しています。また、道路の幅員を60mとり、自転車や歩行者が安全に通行できる専用道路と植樹帯を設け、地元住民の生活道路として利便性や環境への配慮も行っています。さらに、上空から現場の様子を撮影することのできるマルチコプターを導入し、近隣工区との調整や工事の進捗状況の確認などに利用しています。
気持ちよく働ける環境づくりが始まっている
「北国分地区函渠その2工事」の現場には入社2年目の伊集院かおりさんが配属されています。「入社1年目でここに配属されました。私はトンネルが好きなので、ここに配属されたときにはワクワクしました。」
同社では、都心の現場以外に配属された場合には、通常は現場に近いところに賃貸マンションを借り、現場が変わるたびに引っ越しを行います。「いろいろなところに住めるので引っ越しも苦にならず逆に今度はどんなところに住めるのかと現場の異動を楽しみにしています。」
取材当日、人事部の大島実穂さんにも同席していただきました。大島さんは入社14年目の女性技術者の草分け的な存在です。建築の構造設計に長年携わっていましたが、今年の春から人事部に所属し、現場改善の旗振り役として活躍しています。
「私は今年度から始まった日本建設業連合会の『けんせつ小町部会』に会社代表として参加しています。当社では、日本建設業連合会が策定した『「けんせつ小町」が働きやすい現場環境整備マニュアル』を踏まえて、女性の働きやすい現場を目指して積極的な取り組みを始めています。当社の女性社員と日々メールなどで連絡を取り合いながら、彼女たちの意見や要望や吸い上げ、会社に提案しています。提案すると“やってみたら”と受け入れてくれるので、女子社員の意見や要望などが反映された働きやすい現場環境が日々整っています。」
女性のいない現場にも女子トイレを設置
同社がまず、今年の7月から取り組んだのは女子トイレや休憩所の設置です。「女性が働きやすい現場をつくるためには、女子トイレや更衣室の整備が急務だと考えました。現状女性スタッフがいない現場にも、女性技能者を含めた受入体制を整えるために女子トイレの設置をお願いしました。また、当社の女性技術者と協力会社の女性技能者が共同で利用できるカギのかかる更衣室の設置もお願いしました。ただし、女性がいない現場の場合には、部屋に衝立やアコーディオンカーテンなど、女性専用スペース確保の準備を施してくれるようにお願いしました。」(大島さん)
女性ならではのきめ細かさが相乗効果を生む
同社の方針が反映されているのが「北国分地区函渠その2工事」の現場です。現場内はさまざまな工夫が施されています。現場に設置されている仮設の女子トイレは、ゆったりとしたスペースの使い勝手の良い空間です。トイレ内には、消臭剤、植物、トイレットペーパーをストックするための棚なども設置されています。また、姿見やフックも備わっているため、作業着の着替えなどもトイレの中でスムーズに行うことができます。
取材時は、7月中旬。暑さをしのぐ休憩スペースとして設置された屋根つきの木製デッキにも、女性ならではの心遣いが見られました。デッキ内には、電動かき氷機も置かれ、休憩時間に自由に利用できるように配慮されています。休憩スペースの壁には、伊集院さん手作りのイラスト付きのポスターが貼られています。「現場のスタッフの皆さんが気持ちよく休憩スペースを利用できるように、守っていただきたいルールを私なりに考えてポスターを作成しました。皆さんがきちんと実行してくださるので、清潔感のある心地良い場所になっています。」(伊集院さん)
休憩スペースの天井面には霧が発生する配管を配したり、トマトやゴーヤなどのグリーンカーテンを設けたりして、視覚での涼しさを演出するなど創意工夫が満ちあふれています。
「手洗い場にも伊集院が作成した手洗いやうがい励行のイラスト付きのポスターを掲示しています。現場に従事する全員が、手洗い場をきれいに使おうという気持ち が強まっていると思います。また、作業員さんは、伊集院が重いモノを運んでいると代わりに持ってあげると声をかけています。女性がいることで余計なことが増えるというのではなく、女性がいることによって得られる相乗効果が大きいことを実感できます。」(丸木敬一北国分作業所所長)
同社の今年の女性新入社員は建築5人、設備1人、土木4人で全体の1割ですが、今後はもっと増やしたい方針です。また、協力業者の女性の採用予定や、現場での女性用設備の必要性についてアンケートなども実施しています。同社ではアンケートの結果などを踏まえながら、女性の働きやすい環境づくりのためにさらに努力していきたいと考えています。
チームひまわり 現場レポート
この現場では女性用のトイレに仮設用の多目的トイレを使っています。男性の使用を想定していた今までの現場用仮設トイレにはない、鏡や独立した洗面台が標準で設置してあるので、身だしなみのチェックができます。車いすを旋回する空間は、すのこを敷いて着替えるスペースとして、壁に設置されているフックはヘルメット掛けとして使っており、既製品の本来の目的と違ったかたちでの有効活用に、なるほどと感心しました。また木製の棚や植物が置いてあるなど細かな配慮に女性らしさを感じました。
この現場のお揃いのTシャツを着た伊集院さんは、笑顔で元気よく作業員の方に挨拶されていて、とてもイキイキとしていました。丸木所長や人事部の大島さんからは、女性技術者をバックアップしたいという想いが伝わってきました。個人と組織が一体となる事で、女性がより活躍できる場をつくれるのだと感じました。次号もぜひご覧ください。
稲村