建設物価調査会

建設物価2016年3月号

国土交通省 北陸地方整備局 新潟国道事務所 今佐和子さんへのインタビュー地域への広報活動などを通じて土木の大切さを伝えています。

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第8回目は、国土交通省 北陸地方整備局 新潟国道事務所の今佐和子さんへのインタビューと、新潟国道事務所の取組みを紹介します。


国土交通省 北陸地方整備局 新潟国道事務所の今佐和子さんを「チームひまわり」が取材しました。新潟国道事務所は「国道7号栗ノ木道路・柴竹山道路」「日本海沿岸東北自動車道 朝日温海道路」「白根バイパス」などの事業を実施しています。今さんは計画課に所属し、事業計画の推進をはじめ、事務所の顔として地元住民への広報活動などを担当している女性技官です。

新潟国道事務所の今佐和子さん
新潟国道事務所の今佐和子さん

地に足がついた大きな仕事に魅力を感じている

今さんは民間企業から転職されたとお聞きしましたが

大学卒業後に一度民間会社に就職した後、国土交通省に入省しました。大学では情報工学を勉強していました。前職のIT企業で担当していた営業の仕事は好きでしたが、ITという分野は、進歩が目まぐるしく、勉強しても勉強しても新しいものが出てきます。また、ITシステムは世の中への影響は大きいのですが、作っているもの自体は目に見えません。自分が何をやっているのかわからない、というフワフワした感覚を持っていました。やっていることが目に見える仕事、地に足のついた仕事をやりたい、ドンとした仕事をしたいという思いが募り転職しました。

現在はどんな仕事が中心なのですか

計画課に籍を置き、他部署や他機関、地元などとの調整をはじめ、幹部の突発的なアイデアを実行する経営企画室的な仕事が中心となります。昨年度は工務課で「栗ノ木道路・紫竹山道路」の工事を担当していました。積算では、「建設物価」によくお世話になっていました。現場に出ている際に、「工事がはじまったけど今何をやっているの?」「将来どうなるの?「」何のための工事なの?」と地域の方の声を耳にすることが多く、事業広報の大切さを体感しました。今では、事業の目的や将来像、それに向けた現在の工事状況を地域の方々に知ってもらえるよう広報を考えています。パンフレットの制作や、地元に開かれた事業・現場にするために地域の方々を対象にした現場見学のイベントなどを企画してイメージアップ活動に取り組んでいます。

仕事の難しさを感じることはありますか

「栗ノ木道路」の整備については、渋滞解消や事故減少のことしか今まで言っていなかったのですが、この事業が新潟のまちを良くするための事業ということをもっとしっかり伝えていきたいです。立ち退きだってありますし、みんなが賛成とはいきません。この道路を整備することで、新潟全体のまちづくり・この地域のまちづくりに貢献するんだという想いもきちんと伝えていかなければならないと思っています。

土木の担い手を育てることも仕事のひとつ

高校生や小中学生への講義を行っているとお聞きしましたが

男性女性限らず、土木は進路の選択肢から外されることがあると思います。本人の意志よりも親とか周りからの意見でそうなることが多いようです。私もそうでした。ですが、実際土木の世界に入ってみると、すごくやりがいがあって面白い世界でした。周囲からのイメージで道が狭まってしまうのは残念だなと思います。若い人たちの将来の可能性を広げたい、そして、あわよくば、土木を志す人の裾野を広げていきたいと思っています。

高校や大学からの依頼があると、土木の仕事の内容ややりがい、土木の魅力を伝える講演をさせてもらっています。

昨年12月に、県内の高校で文理選択・進路選択を控えた生徒さん200名強に土木について話をさせてもらいました。土木のイメージについてアンケートで事前に聞いたところ「黄色いヘルメット」や「土と木」、「大変そう」、「丸太をかついでるイメージ」、「…」と言ったものでした。労働環境が大変であることは間違いないですが、それ以外のやりがいの部分については、知られていないんだなぁと痛感しました。

また、新潟国道事務所では、地元の小中学生に総合学習やイベントなどで、土木の役割や意義をわかりやすく伝えていくための活動も行っています。国の重要文化財であり、新潟のシンボルでもある「萬代橋」を地域の方々と一緒に守っていくための活動も行っています。

昨年の7月には地域の小学校4年生50名弱ほどに「萬代橋と新潟のまちの発展」について学んでもらいました。生徒さんたちは新潟市の発展を支えている萬代橋の役割、初代萬代橋が建設されてから大きく様変わりした新潟市のまちなみについて興味を持ってもらえました。

地元の小学校の総合学習(萬代橋を渡る様子)
地元の小学校の総合学習(萬代橋を渡る様子)
地元の小学校の総合学習(展望広場から橋と川とまちについて説明)
地元の小学校の総合学習(展望広場から橋と川とまちについて説明)

河川の歴史や役割にも興味をもって取り組む

新潟の歴史などを学ぶことにも積極的に取り組んでいると伺いましたが

新潟に赴任して2年が経ちますが、その土地に手を加える立場として、歴史や土地の成り立ち、地形などを知っておかなければならないと思っています。そのために、地元の歴史案内のイベントに参加したり、地元の方と仲良くなり昔話を教えてもらったり、古い図書を調べたり、と休日は新潟についての勉強(趣味?)を楽しんでいます。

広報紙のガイド役としても活躍されているのですよね

プライベートで新潟のまちづくり団体「NPO法人まちづくり学校」さんのイベントにも参加させてもらっています。そのまちあるきイベントで、事業をしている地域の企画がありました。ちょうど私がその地域の歴史を勉強していたので、ガイド役を務めさせてもらいました。その他に観光雑誌で、新潟の歴史や文化、名所などの案内する機会も頂けました。名所案内と併せて土木観点からのコメントやストック効果についても取上げてもらい、例えば先の総合学習で話した「萬代橋」の紹介もしています。

「萬代橋」はどんな橋なのですか

新潟市の信濃川河口にかかる築86年の長寿橋です。新潟市中心部と新潟駅を結んでおり、新潟のシンボルとして市民の皆様に愛されてきました。現在の橋は三代目なのですが、初代から今に至るまで、仲の悪かった二つの町を繋ぎ、新潟の発展を支えてきました。現在の萬代橋は表面に御影石の化粧張りがしてあり、まちのシンボルに相応しい重厚な景観です。しかし、設計当初はコンクリート打ちっぱなしの予定でした。信濃川の掘削した砂をコンクリート材料に利用できたことにより、コストを縮減でき、茨城から御影石を持ってくることができたのです。建設当時の県財政は極度に逼迫しており、縮減できたコストはのどから手が出るほど欲しかったはずなのですが、後世新潟のシンボルとして意義ある橋になるよう、景観に投資したのです。すごい英断ですよね。「萬代橋の精神を見習うべき」と事務所長に言われながら仕事をしています(詳しくは、次ページ以降参照)。

川と人との関わりを蘇らせることにも取り組んでいきたい

今後の目標などをお聞かせください

新潟は、湊町として発展してきました。町中に張り巡らされたお堀が舟運を担い、新潟の発展を支えてきました。しかし、今ではほぼ全ての堀が埋められてしまいました。堀の再生もいいですが、個人的には、まだ残っている小さい川にももっと注目していいのでは、と思っています。私達地域住民の川に対する意識をもっとあげるべきなのではないかと思っています。そんな考えが強くなるなかで、実際に仕事で川に携われる機会がありました。栗ノ木道路の事業の一環で「栗ノ木川」という都市河川の工事をしています。この川も新潟の舟運を支えてきた重要な川でした。しかし、社会情勢や環境の変化のなかで水質汚染が進み、昨年工事で水を抜いたときには、何十台もの不法投棄自転車が出てきました。今は川と人との関わりが遠くなってきているように思います。およそ70年前までは、「栗ノ木川」は物資の輸送で使用されただけではなく、子供達の泳ぐ姿があったり、お米を研いだり、野菜を洗ったり …。地域の人々の暮らしと深く結びついた生活に寄り添う川でした。信濃川・やすらぎ堤は、きれいに整備され地域の人に愛される環境となっています。他の小さい川たちも、もう少し地域の暮らしとの関わりを持てるようになれば、沿川地域の生活や新潟のまち全体ももっと潤いのあるものになるのではないかとも思っています。

いろいろと貴重なお話しをお伺いし、大変勉強になりました。今さんはこれからも、新潟への深い愛情をもって、地元住民の方々への事業のイメージアップや学生を対象に土木の魅力を伝えていく活動を積極的に行なっていかれることでしょう。地域の方々の暮らしが豊かになるためにこれからもご活躍されることを期待しています。


チームひまわり 現場レポート

今さんは一言でいうと「好奇心のかたまり」といった方。

ご自分の置かれた場所で、色々なことに興味を持ち、行動に移すことで、道を切り開いてこられています。それぞれの土地に愛情をもっていらっしゃるからこそ、できることだと思います。どんな状況でもそこで自分のベストを尽くす。そしてそれを楽しみながらやる。そんな姿勢に非常に刺激を受けたインタビューとなりました。私もできることをできる範囲で、精一杯取り組めるようにしなくては(笑顔も忘れずに!)と改めて考えさせられました。

宮川さん

エネルギッシュな輝く女性がますます増えていきますように。次回、記事もどうぞお楽しみに!

宮川