「建設現場のトイレ整備と環境改善〜水洗式トイレユニットの紹介〜」(三協フロンテア株式会社 技術第三部)
建設現場の現状と問題
建設工事の工期は、工事規模によって数カ月~数年と様々で、現場に必要となる事務所や詰所(以下 “事務所”と総称する)の大きさなども異なってきます。
現場事務所には、短工期での設置が要求されます。また、仮設建築物として建てることで、建築確認申請における規定が一部緩和されるということもあり、その多くがプレハブ工法やユニットハウスで建てられています。
また、現場内に設置する作業員用のトイレについても事務所と同様、短工期の設置、多様な使用期間に対する柔軟性が求められる為、汲み取り式トイレなどの仮設トイレがしばしば使用されており、その多くがリース・レンタル品です。
しかし、事務所やトイレを仮設にすることで、“短工期での設置が可能になる”ことなどの利点がある反面、同時に改善を求められている問題点もあり、以下に例を挙げます。
[1] 建物(躯体)の断熱性能
プレハブやユニットハウスの建築物は、躯体の断熱性能が一般建築物に比べ劣りやすいです。その為、室内温度が外気温の影響を受けやすく、必然的に空調の重要性が大きくなります。
[2] 外観と景観
現場の事務所は大きいほど、周囲の人目に付きやすくなります。外観が劣悪な状態では景観を損ねるだけでなく、周囲からの現場に対するイメージを悪化させる要因にもなり得ます。
そのような点から、現場事務所を設置する上で外観も重要視されています。
[3] 衛生設備(トイレ)
現場の作業員にとってトイレは必要不可欠なものですが、現在その環境改善が強く求められています。
現在は多くの現場で汲み取り式などの仮設トイレが設置されています。仮設トイレといっても様々ですが、主に以下のような利点があり、しばしば使用されています。
●給排水設備が整備されていない現場でも設置・使用が可能
●配管工事が不要の為、短工期での設置が可能
●リユース性が高く、現場廃材が極少
上記のような利点がある反面、問題点もあります。よく挙げられる主な問題点は以下の通りです。
●し尿を溜めるタンク内からの臭気漏れが生じやすい
●空調設備が付設されておらず、また屋外への設置が多い為、夏は暑く、冬は寒い
●靴に付着した汚泥や排せつ物の飛散
これらは使用者の意識だけで容易に改善できるようなものではないため、現場の仮設トイレを衛生的に保つことが難しく、不衛生な状態で使用されているケースも少なくありません。
現場環境の改善
[1]事務所・詰所・休憩所
現場環境の改善が強く求められている昨今、現場事務所の環境改善はすでに積極的に進められています。
多くの現場では空調設備が完備されており、現場作業員にとって快適な事務所になるよう配慮されています。
中には製氷器や冷水器、温水器など、季節・気候に応じた設備を設置している現場もあり、作業員にとってより快適な現場事務所が増えてきています。
[2]トイレ
現場のトイレについても、環境改善として「キレイ」で「臭わない」衛生的なトイレがより求められてきています。
衛生的なトイレの整備手段として様々考えられますが、その一つとして「水洗トイレの導入」が挙げられます。
水洗トイレにすることで、器具本体を水で洗浄することが容易になるだけでなく、適正に排水設備(トラップ等)を設けることで排水先からの臭気の逆流も予防することができ、トイレをより衛生的に保つことが容易となります。
但し、水洗トイレを設置する為には、給排水設備が整備されている必要があります。また、在来の工法では一次側だけでなく、二次側の造作・配管・設備工事も現場で行う必要があり、仮設トイレに比べて手間がかかり工期が長くなってしまう点が懸念されています。
また近年では、脱臭材や消臭剤、抗菌作用を持った素材が発達したことで、水洗式でない仮設トイレでも衛生的なトイレが増えています。
以上の手段などを取り入れ、現場トイレの環境改善も進められてはいますが、それでも現場事務所の温熱環境の改善などに比べるとまだまだ改善されていないのが現状の為、2014年に自社製トイレユニット“サニタリーユニット”の開発に至りました。
サニタリーユニットについて
ユニットハウス(CT-J)をベースとし、水洗トイレを取り入れた機能付きハウス“サニタリーユニット”の特徴は以下の通りです。
[1]サニタリーユニットの特徴
自社工場生産
躯体となるユニットハウスの製作・組立から、内部の造作工事・配管工事・衛生設備施工に至る全ての工程を自社工場にて一貫で行っています。
工場で二次側の施工を全て行うことで現場の作業を削減することができ、①ユニットの搬入・設置、② 一次側の配管、③一次側の電気配線の工事を行うことでトイレを設置し、使用することが可能となっています。
水洗トイレを備えている為、一部現場での(一次側)作業・工事を必要としますが、トイレ設置の工期短縮に対し有益だと考えます。
外観
ユニットハウスをベースとしている為、現場の事務所に同タイプのユニットハウスを使用することで、事務所とトイレの外観に統一感を持たせることができます。
また、連棟(ユニットハウス同士を連結して建てること)することができ、事務所棟の一部として組み込むことも可能となっています。
衛生器具
仮設トイレなどの現場向けのトイレは、運用・管理がしやすいなどの点から樹脂製の器具が主流となっていますが、サニタリーユニットでは陶器の器具を使用しています。
現在の陶器は焼き付け技術の向上などにより傷がつきにくく、汚れが付着しにくくなっています。その為、掃除の手間を減らすことができ、衛生的に保ちやすくなっています。
配管
各器具の給排水管をそれぞれ二次側で1本に集約する(主管を設ける)ことで、一次側配管との接続を給排水共に1カ所のみで行えるようになっています。
一次側配管との接続口を1カ所に集約することで、現場での配管作業が削減できるだけでなく、一次側配管を簡素化することができ、外観の向上にも繋がります。
空間設計
ユニットハウスをベースにすることで広い内部空間を実現しています。
内部空間が広くなることで、各器具ごとのスペースに余裕を持たせることができ、ピーク時などでも複数の使用者が屋内で待機することができるようになっています。
その他、空調設備や備品の収納スペースを設けるなど、各現場の用途に合わせて有効活用することも可能となっており、より快適なトイレとして使用できるようになっています。(空調設備設置は別途工事が必要となります。)
[ 2]サニタリーユニットのラインナップ
42タイプ、54タイプ、72タイプ、 90タイプという4種類のサイズをラインナップとして設けています。
各サイズともユニットハウス本体の短手側の幅が同寸法になっており、長手側の寸法が異なっています。
備え付けられている設備の器具数だけでなく、躯体となるユニットハウスのサイズにもバリエーションを持たせることで、多様な現場の規模や用途に合わせて使用できるようになっています(図1)。
サニタリーユニットの実績
サニタリーユニットは開発から1年半程経過しましたが、すでに多くの現場で利用されています。
その設置方法は用途によって様々で、1棟単体で使用されるケースもあれば、同タイプのユニットハウスで建てた事務所等に連棟して使用されるケースもあります。
また使用期間についても、工事の規模によって数週間~数年間と多岐にわたります。
実際にご使用いただいた方から、多くの評価をいただいている反面、現状では全ての要望に必ずしも応えられていないのも事実です。今後は、より多様な要望に応えられるトイレユニットにしていきたいと考えています。
今後の課題と取り組み
[1]様々な仮設トイレ
水洗トイレを設置するには給排水設備が必要条件となります。そのため全ての現場で設置が可能という訳ではなく、現場の環境や設備によって適した手段を検討・選択しなくてはいけません。
今後、現場トイレの環境改善を強化していく為には、水洗トイレだけでなくそれに代わる手段や仮設トイレの開発、その普及活動も行っていくことが重要だといえます。
[2]女性配慮~女性が働きやすい現場~
現在、国土交通省と建設業5団体は、女性技術者や技能者を5年以内に倍増させるという目標を定め、「もっと女性が活躍できる建設業」を推進しています。
現場の女性技術者や技能者を増やす為に、現場全体の環境改善が必要であり、“女性が働きやすい現場”を作らなければいけません。その為には、快適な事務所・休憩所だけでなく、トイレの環境改善も必要不可欠です。
“女性が働きやすい現場”づくりの為の現場環境整備に関するマニュアルなども出されており、トイレの整備などについても明記されています。
現在のサニタリーユニットは現場環境の改善に有益と考えますが、“女性が働きやすい現場”づくりという観点から見ると、遮音性や必要な設備の不足など、まだまだ配慮が至らない点も多いです。
今後サニタリーユニットを、現場の女性が安全かつ快適に使用できるトイレユニットへとしていく為には、
● “環境整備マニュアル”の内容の取り入れ
●現場の声と要望の調査
などの活動を積極的に行い、より多くの需要に応えられる製品にしていくことが重要と考えます。
これまで頂いた要望の例
●姿見
●擬音装置
●更衣室の設置(又はフィッティングボード)
●洗面化粧台上の小物置場、照明
●安全に使用できる
→施錠付きの出入口、出入口の衝立 等