建設物価調査会

建設物価2018年8月号

うめきた2期まちづくり「 東海道線支線北3地区T新設他工事」を訪ねて

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第31回目は、株式会社鴻池組の女性技術者が活躍する「東海道線支線北3地区T新設他工事」を紹介します。


旧JR梅田貨物駅の跡地、「うめきた」地区では、現在大規模な再開発が進んでいます。すでに先行して開発された区域では、超高層ビルが4棟立ち並び、多数の企業や商業施設、ホテル及び居住区域となっています。また、うめきた2期基盤整備事業のうちJR東海道線支線地下化・新駅設置事業では、その効果として鉄道で分断されているまちの一体化や踏切事故の解消や交通の円滑化及びうめきた地区の関西国際空港へのアクセス向上が見込まれます。

今回はそのJR東海道線支線地下化・新駅設置事業のうち「東海道線支線北3地区T新設他工事」の施工を担う鴻池組・前田建設工業JVを訪ね、鴻池組の女性技術者の方々にインタビューを行いました。

株式会社鴻池組は、2021年に創業150周年を迎えるにあたり、記念ロゴマークを制定しています。
株式会社鴻池組は、2021年に創業150周年を迎えるにあたり、記念ロゴマークを制定しています。

「東海道線支線北3地区T新設他工事」の概要

本工事は、現状うめきた地区の地上を走る東海道線支線を地下化、踏切を除却し都市交通を円滑にするとともに、新駅を設けることで関西国際空港へのアクセス向上を目指すものです。南紀や関西国際空港からの特急電車は大阪駅を通らず新大阪駅に向かうため、大阪駅から徒歩圏内の新駅を設置することで、利便性及びうめきた地区と関西国際空港間のアクセスが向上し、国際競争力の強化が図られます。

また、今までは貨物駅があったために、うめきた地区を横断するための手段はひとつの地下通路しかなく不便でしたが、再開発後は地上に大きな道を通すことでうめきた地区の往来は便利になり、街の一体化・活性化が見込まれます。

鴻池組・前田建設工業JVが担当しているのは大阪駅北付近約2.4km区間において、延長305mの地下函体を開削工法にて築造する工事であり全6工区あるうちの北3工区で、ちょうど地下化する線路が駅に進入していくために複線化し、ラッパ状に広がってくる工区となっています。

「東海道線支線北3地区T新設他工事」の概要

東海道線支線北3地区T新設他工事事務所長 松田佳明さんにお話を伺いました

現場に女性が配属されるということで何か配慮したことはありましたか?

最初どんなことになるのだろうと、心配をしましたが配属された宇治田さんは明るくて周りに溶け込んで職人さんたちとも仲良くやっているので安心しているところです。ただ、周りのちょっとした言動で落ち込むこともあるかと思います。その対応は会社としてフォロー体制を整えカバーしています。事務所の女性用設備は最初の事務所を計画する時に組み込めばいいので、特段問題はないと考えています。

どの現場でも現場事務所は女性用の設備も考慮して作っているのでしょうか?

設備についての基準を設けているのでそれに準じて女性用の設備を整備しています。

女性の現場への配属はどのように決めているのでしょうか?

各本支店でどの現場に女性を配属させるのが適切かを判断しています。配属先の上長と作業内容も考えながら決定しています。

現場に配属された女性に対して本支店からの支援体制は何かありますか?

土木部門、建築部門それぞれバックアップ体制を整えています。

松田佳明さん

会社として今後女性の採用を増やしていく計画ですか?

はい。昨年実績は1割程度なので採用者の2割以上を女性とする目標を掲げています。

女性技術者へのインタビュー

㈱鴻池組の女性技術者・事務社員の皆さんにお集まりいただき座談会を開催しました。

宇治田 悠璃さん

東海道線支線北3地区T新設他工事事務所 工事係員 宇治田 悠璃さん

現場の進捗に応じて測量を行い、指示を行いながら現場の写真撮影などを行っています。この現場での女性技術者は私しかいませんが、女性が自分しかいないから、また自分が女性だからといって困ることは特にありません。なにかあっても言い易い環境なので助かっています。

現場事務所の設備もとても充実していると思います。女性用更衣室も男性用更衣室と同じくらいの広さがあり、広々と使用できています。また、トイレも二重扉になっているので安心して使用することが出来ます。現場がすぐ近くなので、作業中も事務所のトイレを使用しています。


阪急淡路6工区工事事務所 工事係員 宇田 梨沙さん

協力会社の調整や工程管理、施主などとの対外的折衝を行っています。また、周辺には病院等があるので、現場の説明をしに行ったりしています。この現場は線路の立体交差化の工事を行っていますが、どうしても夜間作業が生じるので、近隣の方にはその都度説明しています。夜勤にも携わっています。

宇田 梨沙さん

舘 由香里さん

阪急淡路6工区工事事務所 工事係員 舘 由香里さん

5月から阪急の現場に配置替えとなり、今は協力会社との調整等、施工管理が主体業務となるよう引継ぎを行っているところです。測量や写真管理、作業工程の調整等を前の現場では行っていました。列車管理の資格を取得してから夜勤にも携わる予定です。


西村 咲希さん

梅ヶ谷トンネル(仮称)整備工事事務所 工事係員 西村 咲希さん

これから施工となる東京の奥多摩のトンネルの現場に配属される予定です。そのため、今は施工計画書作成等、書類作成の作業を行っています。

原園 美聖さん

社長室 経営企画部広報課 原園 美聖さん

初めての文系新卒女性総合職として今年入社し、広報課に配属になりました。これから仕事を覚えていくところです。


なぜ建設業に就職しようと思いましたか?

宇田さん
自分の叔父が車の整備士をしており、自分の手で何かを作り上げるところを目の当たりにし、そういう仕事をしたいと思ってこの業界に就職を決めました。

舘さん
自分の生まれ育った町の電車が橋の上を走る風景や、高速道路の連なった電灯が原風景となっていて、いつか大きな構造物を作りたいという憧れになっていました。またテレビで重機などを見て、カッコイイなという思いもありました。

西村さん
大学が環境系の学部だったのですが、学んだことを生かしたいと思い、環境にも力を入れている鴻池組に就職しました。実際に現場に出るようになって、構造物を作ることの素晴らしさを体感しているところです。

宇治田さん
高校の頃、進路を考えた時すでに建設業に魅力を感じており、なかでもより大きな規模の構造物を作ることが出来ると思い土木の道に進むことに決めました。また、なかでもゼネコンへの就職を希望したのは、より自分の手でモノを作っている感を味わえると思ったからです。

原園さん
大学は文系の学部でしたが、高いところから街を見下ろした時に立ち並ぶ構造物を見て、これを人が作ったのだと思うととても感慨深く、建設業に携わりたいという気持ちから就職先に選びました。自分は実際に現場で作業をして作り上げていくということはないですが、事務の立場から支えていきたいと思っています。

現場での

女性ならではの対策はありますか(紫外線対策など)?

宇田さん
ヘルメットの紐は日焼け防止に透明のモノを使っています。手は真っ黒に日焼けしてしまうので、現場ではなるべく手袋は外さないようにしています。

舘さん
日焼け対策としては日焼け止めクリームは欠かせません。

西村さん
逆に冬は手の荒れがひどくて、常にハンドクリームを持ち歩いてケアしています。

こんなものが

こんなものがあったらいいなと思うものはありますか?

宇田さん
夜勤ではヘルメットにヘッドライトを付けて作業をしていますが、そのライトが重く首が痛くなってしまいます。夜勤が続くとつらいので、別の場所につけられないかなと今思案中です。あと、安全帯ももう少し軽いといいなと思います。

㈱鴻池組の女性技術者・事務社員の皆さん

舘さん
ようやく足に合う小さいサイズの作業靴もお店で扱ってもらえるようになりましたが、種類が1つしかなく、選ぶ余地なしなのでいくつかバリエーションがあって中から選べるようになればいいなと思っています。

また、作業着は男性用のものを特注でサイズを変えて作ってもらっています。そのため、服の開きも男性用になっているので、女性用と同じ左前にしてもらえればなと思います。

建設業を就職先に考えている女性達にひと言お願いします!

宇田さん
男女関係なく、建設業はとてもやりがいのある仕事だと思います。自分も就職前は職人さんと仲良くできるかなと不安に思っていましたが、会社の先輩方も含めて皆さんとても良くしてくださいます。女性でも問題なくこなせますので、どんどん女性の技術者が増えて欲しいなと思っています。重いものを持つ等、したくても出来ないことがありもどかしい気持ちになることもありますが、その時は割り切って男の人にお願いしています。

舘さん
目の前で構造物が出来上がっていく面白さから建設業に魅力を感じていても、男社会だからと一歩引いてしまっている女性もいるかもしれません。ただ、実際に働いている女性技術者もだいぶ増えてきているので、安心して建設業の門を叩いて欲しいと思います。

西村さん
自分が指揮をして構造物が出来上がっていく、現場の作業が進んでいく面白さを是非体感して欲しいです。女性だからこそ気付くことや、女性ならではの持ち味を現場でも生かせることも多いと思います。ぜひ多くの女性に建設業を就職先として志望して欲しいです。

宇治田さん
相対的に建設業には女性が少ないので、自分も就職するにあたってすごく不安に感じていました。ただ、実際に入社して働いてみると、女性だからと困ることはあまりありませんでした。性別は気にせずに、たくさんの女性にこの業界に飛び込んできて欲しいですね。

原園さん
初めての文系新卒女性総合職として、これから同じような立場で入社してくる女性の先頭に立って、女性も働きやすい職場を実現させていきたいと考えています。たくさんの女性が建設業を志してくれればと思っています。

㈱鴻池組の女性技術者・事務社員の皆さん

宇治田さん、宇田さん、舘さん、西村さん、原園さんありがとうございました! これからのご活躍をチームひまわり一同応援しています!


チームひまわり 現場レポート

今回はJR大阪駅北のうめきた2期まちづくりの建設現場にお邪魔しました。

建設業界に入る前には職人さんとうまくやっていけるのか…という不安があったというお話もありましたが、実際に働いてみると同じ現場で一緒になって働いていくので、入社前に感じていた不安は気にならないとのことでした。むしろ働きはじめると女性ならではの視点や配慮が仕事に役立つこともあるとのことでした。会社としても女性が現場で働くということを考えて設備を整えるなどの配慮もあるとのことで、女性だから男性だからということはなく、一社会人として仕事に向き合い、皆さんがそれぞれの現場で活躍されているという印象をうけました。

取材をしていく中で、違う現場にいる方同士でお互いの現場について質問や情報交流をされる姿を拝見し、皆さんがそれぞれに大きな目標や熱意をもって真摯に仕事に取り組んでおられると感じました。これから女性職員の採用を増やしたいというお話もあり、今後の女性活躍のロールモデルとして更なる活躍をされてほしいと思います。次回もぜひご覧ください。

髙木

髙木さん