建設物価調査会

建設物価2019年8月号

県民、企業、行政との連携で 女性が活躍できる社会を目指す 「 埼玉版ウーマノミクスプロジェクト」 埼玉県産業労働部ウーマノミクス課を訪ねて

埼玉県では、女性が生き生きと活躍できる社会を目指して、2012年から、埼玉版ウーマノミクスプロジェクトに取り組んでいます。「ウーマノミクス」とはウーマン(女性)とエコノミクス(経済)を合わせた造語。女性が夢を持って活躍できる社会づくりを進め、地域経済を活性化させるためにさまざまな施策を展開しています。

30代女性の就業率を上げる

埼玉県がウーマノミクスプロジェクトに取り組んだきっかけは、県内の女性の就業状況があります。女性の年齢階級別就業率(右グラフ)によると結婚や出産期にあたる30代女性の就業率が低くなっています。一方で就業を希望する女性は全国4位と多い状況です(2017年)。「そういった状況から、県では、女性の就業支援や働いている方の支援に力を入れていくことになりました」と埼玉県産業労働部ウーマノミクス課主事の佐藤里奈さん。

この背景には、核家族世帯の割合が全国で2番目に高いこと (2015年)、子育て世代の男性の就業時間が全国で4番目に長いこと(2017年)があります。 

「都内に通勤する方も多く、家族の協力を得るのが難しい状況もあり、お子さんが生まれると一旦仕事を離れざるを得ない状況が県内には多いと言われています」とウーマノミクス課主査の寿川直美さん。

埼玉県では、女性の就業支援と企業の取り組みをサポートする2つの側面からアプローチし、意識や行動を変えるための呼びかけや働きやすい環境づくりを支援する制度など、さまざまな施策を展開。埼玉版ウーマノミクスサイトの開設や『埼玉版女性活躍推進ハンドブック』を発行して普及啓発を図っています。さらに市町村とも連携して、女性活躍推進の担当者を集めた会議を開催して、県の取り組みや自治体独自の取り組みを情報共有しています。

埼玉版女性活躍推進ハンドブック
女性の年齢階級別就職率

企業や団体と連携した取り組み

県独自の施策として、仕事と家庭の両立を支援し、男女が共に生き生きと働ける環境づくりに取り組む企業を認定する「多様な働き方実践企業認定制度」を実施。認定には6つの基準があり、基準を満たした数に応じて、シルバー、ゴールド、プラチナの3つのランクがあります。認定企業は2019年3月に2805社で、埼玉版ウーマノミクスサイトなどで紹介されます。

またプロジェクトを普及させるための仕組みに「輝く女性応援団」があります。女性活躍推進の取り組みに賛同する企業が「輝く女性応援団」として登録するとオリジナルのポスターやバッチがもらえます。県内の企業や団体などと連携することでウーマノミクスを盛り上げていこうというものです。

2019年3月時点で、2430の企業が登録。「プロジェクトを立ち上げた時から進めています。行政だけでは限界がありますのでご賛同いただける企業や団体と一緒に取り組んでいくことで広がっています」と寿川さん。

女性が働くことが当たり前の時代になっても、家庭と仕事の両立が難しく、女性の負担が大きいことが課題となっています。女性自身が、意識を変えることも必要ですが、会社や家庭における、男性の意識が女性活躍推進の壁になっています。「これまでは特に女性に焦点を当てて支援をしてきましたが、今年度は男性従業員の方への意識改革の研修を開催する予定です」と佐藤さん。

また寿川さんは「家庭の中での役割分担がうまくできず、女性の負担が大きい場合が多かったり、会社の制度はあっても、産休や育休期間の仕事を誰がどう補い、復帰時には、ブランクをどうサポートしていくかといったことに悩みを持たれている企業もあります。それらをどう支援できるかを考えています」と企業の実情に合わせたきめ細やかな支援が必要だと話してくれました。

2017年度と2018年度は、女性の活躍するフィールドを拡大するために、建設業や運輸業など、女性の少ない業界に目を向け、女性の職域拡大、職場の定着に取り組んできました。2018年11月には、埼玉県の建設産業団体と連携し、県内の建設産業経営者、管理者、人事担当者を対象に、担い手確保、人材定着、自社の女性活躍を進めるための課題解決に関するセミナーを行いました。

また、建設業で働く女性が企業を超えて意見交換できるように、女性技術者を対象にした交流会を開催。女性が少ない職場で働く人も多く、仕事や家庭の悩みを話せる場ができたと好評でした。昨年度の交流会では、トイレや更衣室が話題になりました。「建設現場の仮設トイレがせっかく男女別になっていても、横並びで配置されていると女性はやっぱり入りづらいという声がありました。少し離す、あるいは背中合わせにするなど配置を工夫することで、使いやすくなるという意見がでました。そういった女性の声が経営者に届き、改善されることを願っています」と寿川さん。男性はなかなかそういう問題に気付かず、女性に言われて初めて気付くことも多いようです。

ポスター 仕事も趣味も私らしく 私たちは女性の活躍を応援します!
ポスター

埼玉版ウーマノミクスウェブサイト
埼玉版ウーマノミクスウェブサイト

2018年11月14 日、埼玉県民の日、県庁オープンデー」では、埼埼玉県建設産業団体連合会や埼玉県建設業協会などと連携し、建設業界で活躍する女性たちのパネル展示が行われました。会場では重機の展示や、試乗体験もあり、家族連れなど、多くの人が訪れした。また2017年には、県内の建設現場で小学生と保護者を対象にした現場見学・体験会も実施するなど、建設業界のPRやイメージアップにも取り組んできました。

さらに2018年に県内の主要駅やショッピングモールで開催された「ウーマンフェスタ」でも、建設産業で働く女性の写真を展示。現場監督、電気工事、造園などで活躍する女性の姿を紹介し、イメージアップを図っています。「ショッピングモールやライブ会場の手荷物検査など、警備の仕事にも女性が配置さされている機会が増えています。建設業でも設計をはじめ、女性が活躍している分野は多いと思います。できる限り情報共有して、選択肢の一つにしていただけたらと思ってています」と寿川さん。「チームひまわりの活動のように建設産業で働いている女性を紹介することが広まっていくきっかけになると思います」と佐藤さん。

ウーマンフェスタ
ウーマンフェスタ

女性技術者ネットワーク交流会(2017年度)
女性技術者ネットワーク交流会(2017年度)

お二人の働き方は? 寿川 直美さん
他社の女性と話をする場がないというお話を聞き、皆さんが交流する機会を作っていきたいと思っています。個人的には、仕事を終えて家に帰るとやることがいろいろあり、平日はゆっくりできる時間が少ない状況です。週末は趣味を楽しむなど、リフレッシュするようにしています。 佐藤 里奈さん
ウーマノミクス課に来て2年目ですが、企業で働く女性の生の声を聞いて、どうしたら女性がやりたい仕事を続けられるかを考えるようになりました。個人的にはオンオフのメリハリを心掛けています。

チームひまわり 現場レポート

埼玉県ではウーマノミクス課を設置し、女性活躍 推進に取り組んでいます。取材をした寿川さんは「他社の女性と話したい」という働く女性の声を受けていること、佐藤さんからは、講演会等を通して、「役所で働いている自分とは異なる企業の方の生の声が聞ける」と言ったことを取り組みに活かしているとおしゃっていました。

チームひまわり 現場レポート 森井 

女性活躍推進のための課題は、年々改善されていく一方、新たに課題も見つかり、女性の声や、企業の方の生の声を聞くことで、さらに新たな課題に取り組んでいました。 プロジェクトをスタートし、7年経ち、「今までは女性が働きやすい職場づくり、女性自身に働く意識を持ってもらうことに取り組んできましたが、今後は男性の意識改革を行うことに取り組んでいきたい」ということが1番印象に残りました。私自身、女性目線での改善点を重視していましたが、働く女性でも、家庭では家事を行うというイメージがある中で、男性に対して、共働きのなかで出来ることをお互いに行うことが、大切なのだと今後の女性活躍推進につながると感じました。また、家庭と仕事の両立で感じていることを聞くと、「家事の負担が大きい」けれど、「家に帰ってからは仕事を忘れ、休みの日にはやりたいことをする。メリハリをつける」ことを意識しているそうです。女性も男性も自分の時間を大切に、そしてお互い歩み寄ることで今後の女性活躍に期待ができると思いました。

森井