建設物価調査会

建設物価2017年10月号

女性ならではのきめ細かさや心配りが業務に活かされる長良通商株式会社を訪ねて

約8割が女性社員

長良通商㈱は、北は東日本大震災の復興工事から、南は奄美大島や沖縄までの日本各地で土木工事、重機のリース、運送事業などを請け負っています。

平成18年に創立し、平成23年の震災後から本格的に業務を開始しています。

本社の社員は12名ですが、そのうち女性10名、男性2名と圧倒的に女性が多い、女性の活躍が期待されている建設会社です。

女性社員の先頭に立つのは常務取締役の水谷幸子さん。「スタッフ約300人、重機など約300台、コンテナ宿舎約300戸の管理も女性社員が担当しています。仕事は調整しながら進めていくことが求められますが、私は調整役として、仕事が効率的に動いていくように、全体に目配りをする役割を担っています。」

カラフルで機能的なユニフォーム

創立当時は、会社の規模も小さく、事業の見通しも立たなかったため、私服での作業でしたが、今は女性社員全員が赤の上着、黒のボトムという鮮やかなコーディネートのユニフォームを着用しています。

「ベストとスカートの事務服より、現場の作業服のように動きやすく、なおかつカラフルなユニフォームを取り入れました。また現場でも仕事がスムーズに進むように、運転免許証、名刺入れ、メモ帳、携帯電話、ペンなどを入れるためのポケットを上着にたくさんつけました。鮮やかなユニフォームは、遠くから見ても弊社の社員だと一目でわかるので好感度も良いようです。」(水谷常務)

現場で活躍する田口さん
現場で活躍する田口さん
本社の社員は大半が女性
本社の社員は大半が女性

建設業界は未知の世界

初めは女性社員全員が建設業界を知りませんでした。そのため、分からないことや不安になることも多かったのですが、現場に出向くことの多い総務部長の永岡真奈美さんと工事部主任の田口志帆さんはこう話します。

「人材管理を中心とした仕事をしています。現場の所長さんの中には親方気質の方もいて、女性だからというわけではなく、こちらが未熟なため怒られることも度々あります。しかし、何度も現場に出向き、顔見知りになるとトラブルが生じたときに助けられるなど、信頼関係を築くことができ、この仕事をしていて本当によかったと思います。」(永岡さん)

「東北地方での仕事の責任者として、震災の復興現場に出向くこともあります。入社して約2年半が経過し、いろいろな先輩に助けてもらいながら仕事を進めています。現場で男性に体力的にはかなわないと感じることがありますが、間違いやミスも恐れず、取りあえずはまずやってみることを心がけています。」(田口さん)

「現場でつらいことがあって落ち込んでいるとき、まるでその様子が見えているのでは? と思うタイミングで水谷常務から電話がかかってくるんです。『大丈夫?』その一言で何度も救われてきました(永岡さん・田口さん)。「なんとなくわかるんですよ。今頃、頑張っている頃だな、と。(」水谷常務)社員を信頼して仕事を任せる。でも、いつも後ろから見守り、倒れそうなときにはそっと支えてくれる。水谷常務の社員の皆さんに対する愛情を感じるエピソードでした。

女性ならではの発想が業務をスムーズにする

会社の玄関を入ると受付の右側に大きな配車ボードの掲示があります。所有する車両が多いため、2つの白板をつなげた特注の配車ボードです。車の番号、現在地、配車先などが一目でわかるように整理されているため、車両一台一台の現況が瞬時に把握でき、配車の手配もスムーズにいきます。車に詳しくない女性にもわかりやすいように車種まで書かれています。この配車ボードも女性社員のアイディアから生まれました。

また、本社に早朝から夜中まで、現場のスタッフから電話がかかってきていたため今は、電話を受け入れる時間帯を決めているそうです。重機や宿舎の管理を担当する疇和江さんは「夜中や早朝に電話があると業務で何かトラブルがあったのかと最初のうちはドキッとしました。実は、仕事と関係ない内容も多く、それが度重なると、業務に支障が生じるため、電話を受け付ける時間帯を決めました。」と言います。

配車ボードは女性のアイディア

中国などから実習生を受け入れ

外国からの実習生の受け入れをしていますが、現場の仕事だけではなく、メンタル面でのサポートを含めて面倒を見ています。

「現在は中国の実習生が約25名、ベトナムの実習生が7名、スリランカの実習生が2名います。外国からの実習生を受け入れて4年目になりますが、実習生のみなさんの顔はすべて覚えています。(」総務部近藤早記さん)

以前は、言葉の壁に阻まれて、実習生が何を望んでいるのか理解しきれず、実習生が突然帰国してしまうといったトラブルもありました。

こうした突発的な出来事を改善するために、FAXを利用したシステムを作りました。家庭や健康上の理由などで一度帰国させて欲しい、休みをもらいたいなど、自分の要望を用紙の上段に母国語で書きます。現場所長さんには事前に説明をしておき、実習生がこの用紙を持ってきたら長良通商へすぐにFAXを送ってもらうようお願いしておきます。会社に届いたFAXを通訳さんへ送り、訳された内容が会社に届くので、現場所長さんへ伝えます。言葉の通じない場所での仕事・生活は大変なストレスになります。自分の気持ちを分かってもらえるということが、安心感につながっていると思います。通訳を介してやり取りをすることで、トラブルはほぼなくなりました。」(近藤さん)

車両のキーも分かりやすく配置されている
車両のキーも分かりやすく配置されている

労働時間の確保、環境整備などが今後の課題

「土曜日も現場は動いているため、本社でもそれに対応していかなければなりません。そのため、週40時間という限られた労働時間の中で仕事をどうクリアしていくかが課題です。また、女性は結婚や出産などで男性と対等にできない時期もありますが、女性ならではの心配りときめ細かさで乗り越えていけると思っています。現在は発展途上のため、まだまだやらなければならないことが目白押しですが、女性の視点を踏まえながら、もっともっと上を目指していきたいと考えています。仕事はとにかく信頼関係が大事です。こちらが誠意をもって接すれば、相手も誠意で返してくれるはずです。ひいてはそれが発展につながっていくはずです。」(水谷常務)

現在の本社は、コンテナの食堂を利用した建物ですが、近い将来、本社を移設する予定です。新社屋では、女性が使いやすいように更衣室などの環境整備にも配慮しています。

居心地の良い環境の中で女性社員をさらに増やし、女性の持っている能力を最大限活用して、会社がさらに発展するようにと心から願って同社を後にしました。

整理整頓されたオフィス1
整理整頓されたオフィス1
整理整頓されたオフィス2
整理整頓されたオフィス2

チームひまわり 現場レポート

今回は、建設会社では珍しい女性社員が約8割という長良通商さんに取材をしました。そこでは、女性ならではの細かい工夫による業務の効率化や、仕事上で女性だからこそできる気遣いなどが見受けられました。田口さんは、現場では女性だからといって優しくしてもらえる訳ではなく、苦しいこともたくさんあると言います。しかし、そんな時にかかってくる常務の水谷さんからの電話で元気が出たそうです。

駒津さん

水谷さんは、「今頃現場でへばっているだろうと思って電話を一本入れるんです」と言っており、社員の精神面も考えて気配りされているのだと感じました。また、水谷さんは、「女を見せるな」といつも言っており、女性社員の方々は、女性だからと甘えてはいけないという気持ちをしっかり持っているのも印象的でした。女性活躍が注目されるなか、建設業界で働く女性の覚悟と心強さを肌で感じることができ、同じ女性として自分も頑張ろうと身が引き締まったと同時に、今後の女性活躍が期待できるような取材となりました。

駒津


これまでのチームひまわりの活動はいかがでしたか?