制度だけでなく、意識や環境づくりも変えていく 株式会社 梓設計の女性社員にインタビュー
「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」
当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第38 回目は、株式会社梓設計で活躍する30 代の女性社員の生の声を聞いてみました。
建設業界、もしくは梓設計を志望したきっかけは?
渡辺アンさん
ベトナムの大学で電子工学を学び、設備系の仕事をしていましたが、結婚を機に来日しました。面接の時にフレンドリーな社風だと感じ、ぜひここで一緒に設備設計の仕事をしたいと思い梓設計に入社しました。入社6年目ですが、必死で勉強し、海外プロジェクトにも参加しています。
古田知美さん
実家で父が設計事務所を開いていたので、小さい頃から図面や模型に触れる機会が多く、自然に工作用紙で家を作って遊んでいました。その頃は職業にするという意識はなかったのですが、高校生の時に大学のオープンキャンパスに行って色々な学科を見て回り、最後に見学した建築学科で学生の姿を見て、建築の道に進みたいと思いました。
大学卒業後は父の設計事務所で個人住宅の設計をし、施主と一対一の対話をして充実していましたが、より多くの人に使われる案件も手掛けてみたいと思うようになり、公共案件や大規模建築物の実績が豊富な梓設計に就職しました。
木村麻美さん
私も小さい時から物を作るのが好きでした。高校の図書館に新建築などの建築雑誌があり、こんな建物を人が作れるんだと興味を持ち、大学は建築系の学科に進みました。研究室で学校や病院など、色々な人が集まる施設の調査をするなかで、自分もこういう施設の設計をしたいと思い、組織設計事務所である梓設計に進みました。
齋數詩菜さん
文系の学部を卒業して、最初はITコンサル、次にベンチャー企業、IT企業で営業に近い仕事をしてきました。その後、この業界を目指すきっかけとなったのは祖父と父の設計事務所の後継問題でした。私は一人っ子なので設計事務所を継ぐことも視野に入れていたなかで、形の見えないシステムを取り扱うIT業界から見て、ものづくりの業界は面白いだろうなと思い、まずは働きながら夜間の大学で建築を学ぶことにしました。梓設計の採用面接を受けた時に、新しい風を取り入れたい、別の業界から人材を取り入れたいという経営層の強い思いを感じ、この会社ならば、私も新しいことにチャレンジできるなと思いました。今は前職の経験を活かしながら、民間企業向けに提案営業をしています。
仕事上で心に残るエピソード
渡辺さん
仕事の90%は大変ですが、残りの10%の嬉しいことに価値があります。自分が設計した案件をお客さまが喜んで使っているというフィードバックが仕事のモチベーションです。大変だったことも全部忘れてしまいます。
古田さん
公共施設や学校の設計を担当しています。設計している間は大変ですが、完成して学生や子どもたちに喜んでもらえることが嬉しくて、大変なことも忘れてしまいます。看護学校を担当した時に、竣工後に生徒さんが寄せ書きをプレゼントしてくれました。東日本大震災で被災した幼稚園を建て替えるプロジェクトでは、園児と一緒に幼稚園の砂場のデザインを考えました。完成するまで近所の学校を間借りして過ごしていた子どもたちが、広く新しくなった園舎で楽しそうに遊んでいる姿を見て、この仕事をしていて良かったなと思いました。
木村さん
入社して3年目に初めて、コンペから基本設計、実施設計、監理までの仕事を一連で担当したのが燕市庁舎です。コンペを経験して、ゼロから仕事を作ることの大変さと、仕事が取れた嬉しさを実感しました。また、完成するまでチームの一員としてやりきった充実感やモチベーションという点ではすごく大事な物件であり、今の仕事の軸になっています。
齋數さん
フレキシブルでローコストなスタジアムのスタンドシステムを開発しているフランスのGL events社と日本での事業を一緒にすることになり、その担当をしたのがここ数年で一番楽しかった仕事です。大学時代にフランス・リヨンに留学していたので、リヨンに本社があるGL events社には親しみがありました。2017年10月の日本本社設立までの2年間、一人で現地に行って役員の方々と交渉することもあり、かなりハードでしたが、貴重な経験になりました。
現在Shonan BMW スタジアム平塚と、釜石鵜住居復興スタジアムにこのシステムを使った座席が導入されています。今後もこのシステムを日本にもっと広げていきたいです。
女性が長く働き続けるのに必要だと思うことは?
渡辺さん
子どもがいるので家庭との両立を心掛けています。夫は違う業界ですが、建設業の忙しさを理解してくれて積極的に協力してくれます。子育ては母親だけじゃなくて父親と一緒にすることが大事だと思っています。
木村さん
私の場合、同じ職種、各部署に同年代の女性がいて、昼食時にいろんな話をできる環境にあり、楽しく仕事ができるのだと思っています。
古田さん
まず頑張りすぎないこと。そして悩みを溜め込まないよう、私も同じ世代の女性に相談しています。女性は共感して話を聞いてくれるので、それだけですっきりすることがあります。私が入社した時には女性の先輩も少なかったのですが、最近では女性がとても増えています。その分共感できる仲間が増え、働きやすくなったと感じています。
齋數さん
私が入社するまで本社企画営業に女性はいませんでしたが、今は私を含め4人の女性がいます。頑張っても体力的には男性に負けてしまいますが、必要以上に女性だからと思いすぎないように意識しています。出張が多く、体調を崩してしまう時もありますが、今日は休んで、その分明日はしっかりやろうと、自分の中でバランスをとって自己肯定ができるようにしています。
周りの人と認め合うことや、辛いこと、できないことをちゃんと伝えていくことも必要です。ヨーロッパでは女性も男性も子どもが熱を出したら、休むことが当たり前になっています。それをよしとする世界になっていかないと女性が長く働き続けるのは難しいと思います。
古田さん
周囲を見ていると、子どもの病気などで急に休まなければならない時は、休む本人と、代わりに仕事をする人が1対1の関係になることが多く、お互いストレスを感じてしまうのではないでしょうか。そのため組織全体で仕事量を調整できるようなシステムができれば、個人に依存したり負荷がかかったりすることも減り、意識も変わるのかなと思います。設計職の女性も家に帰って子どもの宿題を見てから仕事をするとか、やりくりされている方もいます。働く場所や時間の選択肢が増えれば、育児や家庭との両立もしやすくなるのではないでしょうか。
齋數さん
私は営業で外出する機会が多く、カフェで仕事をすることがあります。会社では育児休暇や介護休暇の人にテレワークを試験的に導入していますが、それが設計職にも広がっていったらいいなと思います。そういう文化が育っていくことで、女性活躍推進はもちろん、働く環境が豊かになっていくのではないでしょうか。
これからこの業界を目指す人たちへのアドバイス
家庭を持ちながら働く女性はこれからも増えると思います。頑張りすぎないように仕事をしながら、家庭も大事にし、自分の時間も作ってバランスをとることが大事です。男性は家のことを全部奥さんに任せるのではなく、お互いに協力することが必要だと思います。また、今の学生が社会に出る頃には、もっと職場に女性が増えて良い環境になっていると思います。建設業界だから…とためらう方も、興味のある人はぜひ頑張ってください。
建設業界の中では、比較的女性が多い建築の世界ですが、組織建築設計事務所である梓設計でもここ10年で女性社員が増えています。その背景には、BIMやインテリア、CGなど職務が細分化され、特化型人材の採用が増えたこと、人物重視の採用などがあり、自然と女性比率が高くなったそうです。また海外志向に伴い外国人の採用も増えています。
「建築に、温度を。」という梓設計のブランドスローガンには、建築の使い手となる来訪者・利用者・患者・子どもたちなどすべての方々に温もりある建築を届けよう。そのために、人に寄り添った提案をしていこう。という会社の使命が込められているとともに、この想いに共感してくれる人たちと共に働いていこう! という人材の活躍への期待も込められています。
また、会社の支援制度や福利厚生「ベネフィット・ワン」で育児補助制度を受けることも可能で、結婚・出産後も働き続ける人が増え、現在、育休・産休を取っている人は4名ほど。今後は女性管理職を増やすことを目標に掲げ、厚生労働省の「えるぼし」認定取得を目指しています。今年、移転する羽田の新オフィスでは、女性にも配慮した設備が増え、快適性の向上が図られるそうです。
チームひまわり 現場レポート
今回取材させていただいた梓設計の4人の女性は、お忙しいなかでもキラキラと輝いて見えました。お客さんに感謝される喜び、仕事を掴めた喜び。喜びの瞬間は人それぞれですが、その気持ちを大切にして仕事に臨む姿がキラキラして見えたのだと思います。
取材のなかで印象に残った言葉は、前職でIT系に勤めていた齋數さんの「建設業界を変えたい」という言葉です。子育てなどをしていると女性は、どうしても男性と比べて体力的に厳しくなってしまいます。そんな状況で仕事と家庭の両立が難しくなった時、「自分がやらないと誰かに負担がかかってしまうのではないか」という気持ちを持ってしまいがちですが、出来ないことや辛いことを周りにしっかり声を出して伝えることが大切だと感じます。女性がいることで発生する様々な対応がイレギュラーなことではなく、普通のことという認識に変わっていくと良いなと思います。次回も是非ご覧ください!
松村
★2018年12月18日、CONFERENCE BRANCH銀座にて、「建設産業女性活躍推進ネットワーク」(事務局:(一財)建設業振興基金)に参加登録している団体が全国から集まり、「『建設産業女性活躍推進ネットワーク』キックオフミーティング」が行われました。各団体の取組紹介や、9班に分かれて建設業での女性活躍推進に向けての現状の課題を出し合い、改善策や行うべき施策について議論しました。
チームひまわりで過去に取材させていただいた方達とも再会し、活動の広がりを感じました。