建設物価調査会

建設物価2022年5月号

木育を通して、子どもたちに木の魅力を伝えたい
越井木材工業株式会社SD部 東京出張所 服部 未尋さんへインタビュー!

 大阪に本社を構える越井木材工業は、高温の水蒸気で熱処理を行い耐朽性・寸法安定性を向上させた「コシイ・スーパーサーモ」をはじめ、木製サッシ、不燃木材、住宅構造材、木製外装材などを扱う木材メーカーです。

戦前は、木材電柱や枕木の防腐処理をしていましたが、戦後、その技術を活かして住宅用の柱や基礎に使う防腐処理材を扱うようになり、現在では、耐久性や安定性に優れた付加価値の高い製品を通して国内の木材利用促進に貢献しています。今回は、エクステリア用の製品を扱うSD部 東京出張所の服部未尋さんにお話をうかがいました。

現在の仕事について教えてください

私が所属するSD部は、防腐処理の技術を生かしたフェンスやウッドデッキなど、外構で使うものを扱っています。その中で、「コシイ・スーパーサーモ」は、フィンランドの技術を社長が日本に持ってきて、日本の気候に合わせて改良し国内の自社工場で国産材を使って生産しています。

自社工場生産のため、様々な地域産材・間伐材が利用可能です。また薬剤を使用しないため、安全で環境への配慮を備えた木製外装材として、全国の公共施設などさまざまな場所で採用いただいています。私は、主に東京都の宿舎や事務所、公園事務所や水道局、消防庁などへ木製外装材の提案をしています。

入社したきっかけは?

 大学では、農学部森林科学科で木材の耐朽性や安定性について学びました。先生の紹介で2003年に越井木材工業に入社し、大阪本社の技術開発室で製品開発に携わり、2006年に東京に転勤してきました。初めのころは、実家も大学も関西なので東京の生活に抵抗があり、数年で関西に戻して欲しいと社長にお願いしていましたが、結婚を機に転勤してよかったと思っています。仕事の面でも、転勤後はハウスメーカーに住宅用ウッドデッキの営業をしていましたが、初めはお客様から関西弁が気になると言われ戸惑うこともありました。

また、一番苦労したのは、土地勘がないことです。今はスマートフォンで簡単に検索でき、目的地まで誘導してくれますが、現場は住宅地が多く、当時はポケット版の東京23区地図を持ち歩いていました。色々な苦労がありましたが、お客様に説明するために大学で使った教科書を必死で読み直して勉強し、同世代の社員と支えあいながら前向きに仕事をしてきました。

 実は一度、退職して他の仕事をしていた時期もありましたが、当時の部長から声をかけていただき、子どもが小さかったこともあり、2017年に事務職として復職しました。2019年からは再び、営業に戻って仕事をさせてもらっています。

越井木材工業㈱ 服部 未尋さん
みなとパーク芝浦
海の森水上競技場

子育てとの両立で苦労されていることはありますか?

 職場のみなさんの理解や協力のおかげでなんとか働けています。今、子どもは小学校3年生です。保育園は早い時間から預けられましたが、小学校は登校時間が決まっているので、会社の就業時間は8時半から17時半ですが、30分の時差出勤を認めてもらっています。朝は子どもと一緒に家を出て9時に出社し、帰りは18時過ぎに仕事を終えます。19時に学童に迎えに行き帰宅してすぐに夕飯です。実家は関西ですので親には頼れませんし、夫と協力して子育てをしています。ママ友のサポートも心強いですね。

 会社には、両立支援や子育て支援の制度がしっかりありますが、女性社員が多い本社と違い、東京出張所の女性は私だけです。また、出張所では、限られた人数でいろんなことをしていかなければなりませんので、最初は言いにくいこともありましたが、皆さんの協力のおかげで「今日は帰ります」など言いやすい職場の雰囲気に変わっていきました。

木材利用が注目されていますね

 カーボンニュートラルやSDGsの観点からも木材利用への関心は高く、CO2を固定化することから注目されている材料です。東京都の面積の4割は森林です。多摩地域で生産されるスギやヒノキの木材は多摩産材と呼ばれています。戦後、急増する住宅建設のために植林が行われましたが、安い輸入材が入ってきたことで国産材の利用が減り、多摩地域には伐採されずに50~60年経った木がたくさんあります。スギやヒノキは30~40年ぐらいまではCO2をどんどん固定化して太っていきますが、それ以降は固定が遅くなります。またスギは30年を超えると花粉が大量に出るようになります。「木を伐って使って植林する」というサイクルが滞っているために、森林本来の良さが半減している状態です。

 そこで東京都では多摩産材の利用を進めていて、都の施設での利用はもちろん、区市町村の施設、さらに民間の保育園や幼稚園などで内装、木製什器、外構施設などに多摩産材を使うことを支援しています。木を伐って使って植林するサイクルをつくり、同時に環境保全についても考えていくことが大切です。その橋渡しをしていけるといいなと思っています。

 2018年の大阪北部地震でブロック塀が倒れ、登校中の小学生がなくなるという痛ましい事故が起きました。これが契機となり、東京都ではブロック塀の見直しを行っており、安全や景観づくりといった観点からも多摩産材や国産材を使ったフェンスやデッキが注目されています。

都内の幼稚園に使われている越井木材工業製品

仕事に対するやりがいは?

  施主に提案するスタイルの営業を行っていますので、製品の良さを理解して採用いただいています。提案したものが、実際に形になり完成した時はうれしいですね。自分の仕事の最終形が目に見えることがやりがいにつながっています。また施主から感想を直接聞けることも励みになります。

「思った以上に良くできた」、「景観になじんでいる」といった声をいただくと本当に良かったと思います。なかには写真を送ってくださる方もいて、やりがいを感じます。


現在取り組んでいること、これからやりたいこと

 東京都は、保育園や幼稚園などを対象に木育推進事業を行っています。木育活動計画に基づく活動や人材の育成、遊具の木質化、内装や外構の整備など、ソフトとハードの両方が補助金の対象になります。当社でも営業活動の一環として、木育の活動に力を入れています。

 私は、ソフト面を中心に取り組んでいて、保育園や幼稚園で子どもたちと一緒にワークショップを行っています。紙芝居や、木を削ってお箸やコースターをつくったり、積み木やドミノ倒しをしたりと遊びを通して、子どもたちに木や森に関心をもってもらうきっかけづくりをしています。子どもたちも喜んでくれますし、私自身もこの活動を楽しんでいます。自分たちで作って遊んでいる木のおもちゃが、園のフェンスやデッキと同じ材料だとわかれば愛着もわきますし、先生方や保護者の方も興味を持ってくださいます。

 来年度以降も回数を増やし、多くの子供たちに小さい頃から木に触れ、森や木材のことを知ってもらえたらいいなと思います。ワークショップでは、どうしても母親目線で工作を手伝ってしまいがちなので、おせっかいにならないように気をつけています。むしろ男性スタッフの方が子どもたちを見守っていますね。作ったお箸をお弁当の時に使ってくださる幼稚園もあり、とても嬉しく思っています。息子とも一緒にお箸を作りましたが、毎日喜んで使っています。

ワークショップの様子

さいごに

 私は木質の建材しか知らなくて建築業といっても狭い世界ですが、木はCO2固定など注目されている材料です。木材は加工しやすく昔から人の近くにある材料ですし、長持ちさせる技術も進んでいます。ぜひいろんな方に興味を持っていただけたらなと思います。

※写真撮影時のみマスクを外しています。


チームひまわり 現場レポート

 今回は、私自身の調査担当資材でもある、木材の業界で働く服部さんを取材しました。

 木材の国産材受給率は、高度経済成長期には9割以上でしたが、2000年頃には2割程度まで減少しています。現在は、昨今のウッドショックや、服部さんがおっしゃったような森林の循環の問題への取り組み、木材利用促進法の改正などより、4割程度まで増加しています。

 今以上に国産材の利用を広げるためには、林業の担い手不足や、輸入材との競合など、解決すべき問題がたくさんあります。そんななかで、服部さんが取り組む「木育」は、子どものうちから木の良さを理解し、身近に感じ「木材っていいな」という思いを育てるのに最適な方法だなと思いました。

 また、女性が少ない中で上司や同僚の協力を得ながら、転勤や結婚・出産、退職など様々な環境の変化にも対応し、しなやかに前向きに働く服部さんの姿は、とてもまぶしく感じるとともに、私も同じ働く母として頑張ろう! とパワーをもらえる取材になりました。

稲村